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最高裁判所第一小法廷 昭和63年(オ)1730号 判決 1992年1月23日

上告人

堀江俊順

右訴訟代理人弁護士

上羽光男

被上告人

真宗大谷派

右代表者代表役員

細川信元

右訴訟代理人弁護士

表権七

山下孝之

千森秀郎

長谷川宅司

同訴訟復代理人弁護士

入江正信

主文

原判決中懲戒処分無効確認請求に係る部分を破棄し、右部分について、第一審判決を取り消し、上告人の訴えを却下する。

その余の本件上告を棄却する。

訴訟の総費用は、上告人の負担とする。

理由

一本件懲戒処分無効確認請求について、職権をもって判断する。

1  上告人の主張の大要は、次のとおりである。

(一)  上告人は、被上告人を包括宗教法人とする宗教法人教覚寺の代表役員であり、同寺の住職である。

(二)  被上告人は、昭和五六年八月三一日、上告人が昭和五一年五月一五日訴外人と共に被上告人の宗務所を不法占拠し、教団の秩序を乱したとの理由で、上告人を重懲戒七年の懲戒処分(以下「本件処分」という。)に付した。

(三)  本件処分により、上告人は、自己が所属する寺院以外の場所で一切の僧侶としての活動ができなくなるため、他の寺院での宗教活動によって自己の生活又は教覚寺の維持に必要な収入を得ることができなくなり、また、一切の役職を免ぜられるため、教覚寺の住職としての地位を免ぜられ、住職が代表役員に就任するものとされている宗教法人教覚寺の代表役員の地位をも失うことになる。

(四)  本件処分は、懲戒権の行使において条理に反し、処分の理由として掲げられた事実を誤認し、さらに、他の関係者に対する懲戒処分に比して著しく重いから、無効である。

(五)  よって、上告人は本件処分が無効であることの確認を求める。

2  原審は、本件処分により、上告人が、自己の所属する寺院以外の場所で一切の僧侶としての活動ができなくなり、住職としての地位を含め一切の役職を免ぜられ、宗教法人教覚寺の代表役員の地位、被上告人の宗務役員たる役職をも失い、本件処分によって上告人は経済的に重大な影響を受けるとの事実を認定し、右事実を前提とすると、本件処分によって上告人の具体的な権利又は法律関係に変動を生ずるから、本件処分に関する争いは具体的な権利又は法律関係に関する争いであり、裁判所として本件処分の適否を判断することができるとして、請求の内容である本件処分の効力の有無を判断した上、上告人の請求を棄却すべきものとした。

3  しかしながら、宗教団体内部においてされた懲戒処分が被処分者の宗教活動を制限し、あるいは当該宗教団体内部における宗教上の地位に関する不利益を与えるものにとどまる場合においては、当該処分の効力に関する紛争をもって具体的な権利又は法律関係に関する紛争ということはできないから、裁判所に対して右処分の効力の有無の確認を求めることはできないと解すべきである(最高裁昭和五一年(オ)第九五八号同五五年一月一一日第三小法廷判決・民集三四巻一号一頁参照)。これを本件についてみるに、原審の適法に確定したところによれば、本件処分は、被上告人の宗教団体内部の規律違反に関するものであり、被上告人の宗教団体内部において、上告人の僧侶としての宗教活動を制限し、又は宗教団体内の地位をはく奪し、若しくは降格するものであるというのである。そうすると、本件処分の効力の有無をもって具体的な権利又は法律関係に関する紛争ということはできない。

もっとも、上告人は、前記1(三)記載のとおり、本件処分により上告人が被る不利益として、宗教法人教覚寺の代表役員又は同寺の住職たる地位の喪失及び僧侶としての活動等が制限されることによる収入の減少を挙げる。しかし、原審認定事実によっても、教覚寺の住職たる地位が単なる宗教上の地位以上の法律関係を含むものであるとは認められない上、宗教法人教覚寺の代表役員たる地位の存否は、同宗教法人との間の紛争であって、本訴当事者間の権利又は法律関係に関する紛争ということはできない。そして、本件処分の結果として上告人が経済的及び市民的生活に関する不利益を受け、これが具体的な権利又は法律関係に関する紛争に該当することがあるとしても、その故に本件処分の効力の有無をもって具体的な権利又は法律関係に関する紛争ということはできない。

4  右によれば、請求の内容の当否を判断して上告人の右請求を棄却すべきものとした原審の判断は違法であり、この違法が判決に影響することは明らかであるから、原判決は、この部分につき破棄を免れない。そして、本件処分の無効確認請求に係る訴えは不適法として却下すべきものであるから、右請求を棄却した第一審判決を取り消し、右訴えを却下することとする。

二本件地位確認請求について

上告代理人上羽光男の上告理由について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右事実関係によれば、本件処分によって上告人は被上告人の宗務役員たる地位を喪失したものというべきであるから、右地位にあることの確認を求める上告人の請求を棄却するべきものとした原審の判断は首肯するに足りる。論旨は採用することができない。

三よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官四ツ谷巖 裁判官大内恒夫 裁判官大堀誠一 裁判官橋元四郎平 裁判官味村治)

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